【社労士試験】老後の年金。夫から妻にのこす遺族厚生年金【FP/年アド】

皆さん、こんにちは。
金沢博憲(社労士24)です。

今回は、「老後の年金。夫から妻にのこす遺族厚生年金」というタイトルをご紹介します。
ご夫婦の老後において、一方がなくなった後の老後の年金がどうなるのか、わかりやすく解説します。

「読んでいる暇がないよ」という方は、こちらの動画でも解説しておりますので、ぜひ御覧ください。

内容としては、65歳以上のご夫婦の一方が亡くなったときに支給される遺族年金の条件や金額についてです。

遺族年金とは

まず遺族年金とは、一家の働き手の方や年金を受け取っている方がなどが亡くなられたときに、ご遺族に支給される公的年金をさします。

公的な遺族年金には、2種類あります。

「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」です。

この遺族厚生年金と遺族基礎年金の両方をもらう場合と、片方のみもらうという場合で分かれます。

例えば、会社員の夫や会社員であった夫(現在は退職)が亡くなった場合に、のこされた遺族が妻と子供(原則、高校生まで)であるという場合は、ご遺族に遺族厚生年金と遺族基礎年金の両方が支給されます。

一方で、のこされた遺族が妻のみという場合は、遺族厚生年金のみ支給されます。

 

遺族基礎年金がでるケースは、子供がいる場合に限られますので、子供がいない妻には、遺族基礎年金は支給されないということです。

そして、今回の内容は「65歳以上のご夫婦の一方が亡くなった場合の遺族年金」ということで、お子さんはすでに成人され独立されていると考えらますので、のこされた遺族が妻のみのケース(遺族厚生年金のみのケース)ということで話を進めさせていただきます。

また、このケースは、夫が亡くなったケースとしておりますが、その逆のケースももちろんあります。
妻が亡くなった場合、条件を満たせば、夫が遺族厚生年金をもらうことは可能です。
ただし、一般的な平均寿命で考えた場合、男性81歳、女性87歳ということで、女性の方が長寿ということがありますから、女性(妻)が遺族厚生年金を受け取るケースということで話を進めます。

遺族厚生年金の要件

さて、遺族厚生年金の要件は次のとおりです。

被保険者というのは会社員として在職中ということ、被保険者であった方というのは、かつて会社員で現在は退職されているということです。
これらの者が上記の①~⑤のいずれかに該当すれば要件を満たすということです。
例えば①は、「厚生年金保険の被保険者である間に死亡した」つまり、会社員として在職中に死亡したということです。

そして、今回のテーマに当てはまるのは④の「老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき」です。
会社員であった方が、老後65歳に達すると、老後の年金として老齢厚生年金を受給します。
その老齢厚生年金を受給中の夫が死亡した場合です。

ただ、1点注意しなければならないは、「老齢厚生年金を受給中の夫」のすべて該当するわけではありません。

老齢厚生年金自体は、国民年金や厚生年金保険といった公的年金の加入期間を全部通算して10年以上あると、もらうことができます。
一方で、遺族厚生年金の要件で登場する「老齢厚生年金」は10年以上では足りず、25年以上必要です。
それが※の内容です。
例えば、「会社員として25年以上働いていた」とか、「会社員として55年、自営業として20年働いて保険料を納めていた」という場合が該当します。

以上がもらうための条件です。

遺族厚生年金の年金額

さて上限を満たした上での遺族厚生年金の支給額ですが、数パターンに分かれます。

現役時代に「夫が会社員、妻が専業主婦」という場合と「夫が会社員、妻の会社員(つまり共働き)」という場合で分かれます。

まず、現役時代、「夫が会社員、妻が専業主婦」というケースをみていきます。

夫/会社員、妻/専業主婦のご夫婦

話をシンプルにするために、夫はずっと会社員、妻はずっと専業主婦という設定で話を進めます。

この場合、老後の年金で考えると、夫は、老齢厚生年金と老齢基礎年金を受給します。

老齢基礎年金は、全国民に支給される共通の年金です。
老齢厚生年金は、会社員であった者に老後支給される年金です。

一方、妻への老後の年金は、老齢基礎年金のみです。
会社員としての加入実績がないということで、老齢厚生年金は支給されません。

ということで、パターン①は、妻に老齢厚生年金の受給権がない場合です。

まず夫の老齢厚生年金です。
老齢厚生年金の額は現役時代の給料の平均額や加入期間の長さで決まります。
例えば、平均して給料30万円で、加入期間が40年として場合、概算額で年80万円となります。
そして、老齢基礎年金は、これも滞納期間の有無などで変わってきますが、40年間きっちり保険料を納めている場合は、満額支給され、概算額で年78万円です。

一方で、妻の老齢基礎年金も、満額支給で78万円とします。
専業主婦の期間は第3号被保険者期間という扱いになって、実際には保険料を払っていなくても払ったという評価になります。
したがって、40年間専業主婦であった場合は、満額の老齢基礎年金が支給されます。

この場合、世帯の年金収入は236万円となります。

ここまでが老後の年金です。

その状態で夫が死亡した場合、まず、まず夫の老齢基礎年金は打ち切りです。
一方で、夫の老齢厚生年金は、その一部が遺族厚生年金に形を変えて妻に残されることになります。

その遺族厚生年金の額は、夫の老齢厚生年金の金額をベースに計算します。

  • 遺族厚生年金の額→夫の老齢厚生年金の4分の3の額

したがって、夫の老齢厚生年金が80万円とすれば、80万円の4分の3の額、60万円が遺族厚生年金として妻に支給されます。
さらに、妻は60万円の遺族厚生年金と、妻自身の老齢基礎年金を両方受給することが可能です。
結果、妻は、遺族厚生年金60万円と、老齢基礎年金78万円の合計138万円の年金を受け取ることが可能です。

このような仕組みにしている理由は、夫が死亡した後、夫の年金が打ち切られ、世帯の年金収入が減ることになりますが、夫の老齢厚生年金の一部を妻に遺族厚生年金として支給することで、夫が亡くなった後の妻の生活を支えようというものです。

以上が、「夫が会社員、妻が専業主婦」という場合の遺族厚生年金です。

夫/会社員、妻/会社員のご夫婦

次に、現役時代、夫も妻も、ともに会社員であった共働き世帯のパターンを解説します。

まず、老後の年金としては、65歳以上になると、夫は老齢厚生年金と老齢基礎年金、妻も老齢基礎年金と老齢基礎年金を受給します。

この場合で、夫が死亡した場合の遺族厚生年金の額は、夫の老齢厚生年金と妻の老齢厚生年金の差によって変わってきます。

では、具体的にみていきます。

パターン②妻の老齢厚生年金が夫と比べて50%未満

パターン②は、妻の老齢厚生年金が夫と比べて50%未満のケースです。
妻の会社員としての期間がだいぶ短い場合などが想定されます。

例えば、

  • 夫の老齢厚生年金が80万円、老齢基礎年金が78万円
  • 妻の老齢厚生年金が30万円、老齢基礎年金が78万円
  • 世帯の年金収入は266万円

とします。

老齢厚生年金の額は、夫(80万円)と比べて妻(30万円)は50%未満です。

この状態で夫が死亡した場合、妻に遺族厚生年金が支給されます。

ここで遺族厚生年金の金額が2パターンにわかれます。
妻が老齢厚生年金を貰える場合は、2つの選択肢があるのです。

次の①②の額のうち、いずれか高い方の額が遺族厚生年金の額となります。

① 夫の老齢厚生年金×3/4

② 夫の老齢厚生年金×1/2+妻の老齢厚生年金×1/2(夫婦双方の老齢厚生年金の半分ずつ)

②の特例は、夫死亡後の世帯の年金年収が夫死亡前の1/2未満にならないようにするための特例です。

事例に当てはめると、

① 夫の老齢厚生年金×3/4=60万円

② 夫の老齢厚生年金×1/2+妻の老齢厚生年金×1/2(夫婦双方の老齢厚生年金の半分ずつ)=55万円

①60万円と②55万円を比べると、①の60万円の方が高いので、60万円が遺族厚生年金として支給されます。

ただ、このときに、遺族厚生年金60万円と、妻自身の老齢厚生年金30万円を両方受給して90万円になる、ということはありません。

妻の老齢厚生年金30万円は引き続き支給されますが、遺族厚生年金として支給されるのは、老齢厚生年金の30万円との差額にあたる30万円部分だけです。
したがって、結局、遺族厚生年金として60万円をもらうのも、老齢厚生年金30万円+遺族厚生年金30万円で計60万円をもらうのも、一見、変わりないということになります。

しかし、決定的に違うのは、遺族厚生年金は非課税で、老齢厚生年金は課税対象という点です。
つまり、老齢厚生年金30万円+遺族厚生年金30万円として支給することで、老齢厚生年金の30万円部分は課税対象にするという仕組みになっています。

その上で、妻は、あわせて老齢基礎年金78万円を受給することで、トータル138万円の年金収入になります。

この金額、実は前述の「夫が会社員、妻が専業主婦」の場合と同じ金額になります。

夫が無くなる前は、「夫が会社員、妻も会社員」のケースの方が世帯の年金収入は多いわけですが、夫が亡くなった後は、同じ金額になるというのは老後の生活設計を考える上で大事なポイントになります。

パターン③妻の老齢厚生年金が夫と比べて50%以上同額未満

次のパターン③は、妻の老齢厚生年金が夫と比べて50%以上同額未満のケースです。
夫100に対して妻80とか、そんな感じです。
夫婦ともに正社員としての勤務期間が比較的長いと、このパターンに該当すると思われます。

事例としては、

  • 夫の老齢厚生年金が80万円、老齢基礎年金が78万円
  • 妻の老齢厚生年金が60万円、老齢基礎年金が78万円
  • 世帯の年金収入は296万

とします。

老齢厚生年金の額は、夫(80万円)と比べて妻(60万円)は50%未満100%未満です。

この状態で夫が死亡した場合、妻に遺族厚生年金が支給されます。

ここで遺族厚生年金の金額が前述のとおり2パターンにわかれます。

次の①②の額のうち、いずれか高い方の額が遺族厚生年金の額となります。

① 夫の老齢厚生年金×3/4

② 夫の老齢厚生年金×1/2+妻の老齢厚生年金×1/2(夫婦双方の老齢厚生年金の半分ずつ)

事例に当てはめると、

① 夫の老齢厚生年金×3/4=60万円

② 夫の老齢厚生年金×1/2(40万円)+妻の老齢厚生年金×1/2(30万円)=70万円

①60万円と②70万円を比べると、②の70万円の方が高いので、70万円が遺族厚生年金の額となります。

つまり、”50%”が境界線で、夫と比べて妻が50%未満だと①の額、50%以上だと②の額になるわけです。

そして、70万円の遺族厚生年金のうち、妻の老齢厚生年金の60万円との差額にあたる10万円が遺族厚生年金として支給されます。

結果、妻は、遺族厚生年金10万円、老齢厚生年金60万円、老齢基礎年金78万円の計148万円が妻の年金収入になります。
夫死亡前の世帯の年金収入が296万円ですから、夫死亡後においても、夫死亡前の2分の1の年金が確保されていることになります。

前述の通り②(夫婦双方の老齢厚生年金の2分の1の合計)は、夫死亡後の世帯年収が夫死亡前の1/2未満にならないようにするための特例です。
もし、②の特例がないとすると、夫死亡後の妻の年金は138万円(78万円+60万円)となり、夫死亡前の2分の1を下回ってしまうのです。

以上がパターン③のケースです。

パターン④妻の老齢厚生年金が夫と比べて同額以上

最後のパターン④のケースは、妻の老齢厚生年金が夫と比べて同額以上の場合です。
妻の年金の方が多いというケースです。

 

事例としては、

  • 夫の老齢厚生年金が80万円、老齢基礎年金が78万円
  • 妻の老齢厚生年金が80万円、老齢基礎年金が78万円
  • 世帯の年金収入は316万円

とします。

夫と妻の老齢厚生年金が同額のケースです。

この状態で夫が死亡した場合、遺族厚生年金の金額が前述のとおり2パターンにわかれます。

次の①②の額のうち、いずれか高い方の額が遺族厚生年金の額となります。

① 夫の老齢厚生年金×3/4

② 夫の老齢厚生年金×1/2+妻の老齢厚生年金×1/2(夫婦双方の老齢厚生年金の半分ずつ)

事例に当てはめると、

① 夫の老齢厚生年金×3/4=60万円

② 夫の老齢厚生年金×1/2(40万円)+妻の老齢厚生年金×1/2(40万円)=80万円

①60万円と②80万円を比べると、②の80万円の方が高いので、80万円が遺族厚生年金の額となります。

しかし、このケース、妻の老齢厚生年金が80万円ですから、遺族厚生年金の額は80万円停止されて、結局ゼロ円ということになります。

つまり、妻の老齢厚生年金が夫の老齢厚生年金と同額以上のケースに置いては、遺族厚生年金は支給されないことになります。

結果、妻は、老齢厚生年金80万円と、老齢基礎年金78万円の計158万円を受給することになり、夫の死亡によって、妻自身の年金が増えることはない、という仕組みになっています。

以上が、遺族厚生年金の支給額4パータンです。

まとめ

最後にまとめます。

  • 亡くなった夫の老齢厚生年金の一部は、妻に遺族厚生年金として支給される
  • 妻は、妻自身の老齢基礎年金と遺族厚生年金を両方受け取ることができる
  • 妻に老齢厚生年金が支給されるときは、妻の老齢厚生年金との差額が遺族厚生年金として支給される
  • 妻の老齢厚生年金が夫の老齢厚生年金と同額以上であるときは、遺族厚生年金は支給されない

最後までご覧いただきありがとうございました。

 

 

執筆/資格の大原 社会保険労務士講座

金沢 博憲金沢 博憲

時間の達人シリーズ社労士24」「経験者合格コース」を担当致しております。
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