【社労士】試験にでる最新・主要 最高裁判例【2019まとめ】

皆さん、こんにちは。

社会保険労務士試験で出題が予想される「最高裁判例」総まとめです。

さらに多くの判例を知りたい方はこちら

判例の出題傾向、アプローチ

最高裁判例は、労基の選択・択一、労災の選択・択一、労一の択一で出題可能性があります。

・選択式対策としては、キーワードを押さえる。
・択一式対策としては、「有効か無効か」、「適法か違法か」の結論が大事。
結局はマルかバツしかない。深入り厳禁。浅く、広く。

【最新】日本郵便事件(平成30年9月14日)

判事事項

1 郵便関連業務に従事する期間雇用社員について満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨の就業規則の定めが労働契約法7条にいう合理的な労働条件を定めるものであるとされた事例

2 郵政民営化法に基づき設立されて日本郵政公社の業務等を承継した株式会社がその設立時に定めた就業規則により同公社当時の労働条件を変更したものとはいえないとされた事例

3 期間雇用社員に係る有期労働契約が雇止めの時点において実質的に期間の定めのない労働契約と同視し得る状態にあったということはできないとされた事例

裁判要旨

1 労働契約法7条

郵便関連業務に従事する期間雇用社員について満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨の就業規則の定めは,次の⑴,⑵など判示の事情の下においては,労働契約法7条にいう合理的な労働条件を定めるものである。

  1. 上記期間雇用社員の従事する業務は屋外業務,立った状態での作業,機動車の乗務,機械操作等であるところ,当該就業規則の定めは,高齢の期間雇用社員について,これらの業務に対する適性が加齢により逓減し得ることを前提に,その雇用管理の方法を定めたものである。
  2. 当該就業規則の定めの内容は,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に抵触するものではない。

2 労働契約法10条

日本郵政公社の非常勤職員であった者が郵政民営化法に基づき設立されて同公社の業務等を承継した株式会社と有期労働契約を締結して期間雇用社員として勤務している場合において,当該株式会社は,当該株式会社が同公社とは法的性格を異にしていること,当該者が同公社の解散する前に同公社を退職していることなど判示の事情の下においては,期間雇用社員について満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨をその設立時の就業規則に定めたことにより,同公社当時の労働条件を変更したものということはできない。

3 労働契約法19条1号

期間雇用社員に係る有期労働契約は,満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨の就業規則の定めが当該労働契約の内容になっていること,期間雇用社員が雇止めの時点で満65歳に達していたことなど判示の事情の下においては,当該時点において,実質的に期間の定めのない労働契約と同視し得る状態にあったということはできない

 

自賠責保険に対する、被災者請求と労災求償の競合に関する判例

被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と労働者災害補償保険法12条の4第1項により国に移転して行使される上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合,被害者は国に優先して損害賠償額の支払を受けられる

 

合格者(男性)

交通事故で、被害者が労災から保険給付を受ける→労災で補いきれない損害分を自賠責保険に請求。
一方で、労災保険は、肩代わりした分を自賠責保険に求償。
それらの合計額が保険金額を超える場合の取扱い。
・従来→請求額に応じて按分支給。
・最高裁判断→被害者への支払は国に優先して行われる。

”判決文はこちら”
所論は,自動車の運行によって生命又は身体を害された者(以下「被害者」 という。)の直接請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合には,被害者は,その直接請求権の額が上記合計額に対して占める割合に応じて案分された自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができるにとどまる旨をいうものである。
しかしながら,被害者が労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害(以下「未塡補損害」という。)について直接請求権を行使する場合は,他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され,被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても,被害者は,国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができるものと解するのが相当である。
その理由は,次のとおりである。
(1) 自賠法16条1項は,同法3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときに,被害者は少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害の塡補を受けられることにしてその保護を図るものであるから(同法1条参照),被害者において,その未塡補損害の額が自賠責保険金額を超えるにもかかわらず,自賠責保 険金額全額について支払を受けられないという結果が生ずることは,同法16条1 項の趣旨に沿わないものというべきである。
(2) 労災保険法12条の4第1項は,第三者の行為によって生じた事故について労災保険給付が行われた場合には,その給付の価額の限度で,受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権は国に移転するものとしている。
同項が設けられたのは,労災保険給付によって受給権者の損害の一部が塡補される結果となった場合に,受給権者において塡補された損害の賠償を重ねて第三者に請求することを許すべきではないし,他方,損害賠償責任を負う第三者も,塡補された損害について賠償義務を免れる理由はないことによるものと解される。 労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするため必要な保険給付を行うなどの同法の目的に照らせば, 政府が行った労災保険給付の価額を国に移転した損害賠償請求権によって賄うこと が,同項の主たる目的であるとは解されない
 
したがって,同項により国に移転した直接請求権が行使されることによって,被害者の未塡補損害についての直接請求権の行使が妨げられる結果が生ずることは,同項の趣旨にも沿わないものというべ きである。
 

労働契約法第20条に関する判例

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

ハマキョウレックス事件(平成30年6月1日)

1 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない

2 労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。

3 労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。

4 乗務員のうち無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で,有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

(1) 上記皆勤手当は,出勤する乗務員を確保する必要があることから,皆勤を奨励する趣旨で支給されるものである。
(2) 乗務員については,有期契約労働者と無期契約労働者の職務の内容が異ならない
(3) 就業規則等において,有期契約労働者は会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるが,昇給しないことが原則であるとされている上,皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない

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厚生労働省の解説動画

長澤運輸事件(平成30年6月1日)

1 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。

2 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨個別に考慮すべきである。

3 乗務員である無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で,定年退職後に再雇用された乗務員である有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,両者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である場合であっても,次の⑴~⑹など判示の事情の下においては,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない

⑴ 有期契約労働者に支給される基本賃金の額は,当該有期契約労働者の定年退職時における基本給の額を上回っている
⑵ 有期契約労働者に支給される歩合給及び無期契約労働者に支給される能率給の額は,いずれもその乗務するバラセメントタンク車の種類に応じた係数を月稼働額に乗ずる方法によって計算するものとされ,歩合給に係る係数は,能率給に係る係数の約2倍から約3倍に設定されている。
⑶ 団体交渉を経て,有期契約労働者の基本賃金が増額され,歩合給に係る係数の一部が有期契約労働者に有利に変更されている。
⑷ 有期契約労働者の賃金体系は,乗務するバラセメントタンク車の種類に応じて額が定められる職務給を支給しない代わりに,前記⑴により収入の安定に配慮するとともに,前記⑵により労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されたものである。
⑸ 有期契約労働者に支給された基本賃金及び歩合給を合計した金額並びに当該有期契約労働者の賃金に関する労働条件が無期契約労働者と同じであるとした場合に支払われることとなる基本給,能率給及び職務給を合計した金額を計算すると,前者の金額は後者の金額より少ないが,その差は約2%から約12%にとどまる
⑹ 有期契約労働者は,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上,その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,調整給の支給を受けることができる。

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労働(固定残業代制度の有効性)に関する判例

固定残業代(定額残業代)制度の有効性が争点となった最高裁判決が続いています。
固定残業代とは、実際の時間外労働、休日労働および深夜労働の有無にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して、その名称にかかわらず定額で支払われる割増賃金を指します。
その固定残業代の有効性に関するリーディングケースになっているのが、「高知県観光事件」です。

高知県観光事件(平成6年6月13日)

タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に、時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは、右歩合給の支給によって労働基準法(平成五年法律第七九号による改正前のもの)三七条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできない

合格者(男性)

この「高知県観光事件」の考え方を踏襲し、(あくまで補足意見としてですが)固定残業代の有効要件により踏み込んで言及したのが「テックジャパン事件」です。

テックジャパン事件(平成24年3月8日)

基本給を月額41万円とした上で月間総労働時間が180時間を超える場合に1時間当たり一定額を別途支払い,140時間未満の場合に1時間当たり一定額を減額する旨の約定のある雇用契約の下において,次の(1),(2)など判示の事情の下では,労働者が時間外労働をした月につき,使用者は,労働者に対し,月間総労働時間が180時間を超える月の労働時間のうち180時間を超えない部分における時間外労働及び月間総労働時間が180時間を超えない月の労働時間における時間外労働についても,上記の基本給とは別に,労働基準法(平成20年法律第89号による改正前のもの)37条1項の規定する割増賃金を支払う義務を負う
(1)上記の各時間外労働がされても,上記の基本給自体が増額されるものではない
(2)上記の基本給の一部が他の部分と区別されて同項の規定する時間外の割増賃金とされていたなどの事情はうかがわれない上,上記の割増賃金の対象となる1か月の時間外労働の時間数は各月の勤務すべき日数の相違等により相当大きく変動し得るものであり,上記の基本給について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と上記の割増賃金に当たる部分とを判別することはできない
(補足意見) 便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが,その場合は,その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に示されていなければならな いであろう。さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなけれ ばならないと解すべきと思われる。

合格者(男性)

この補足意見の内容は、その後職業安定法(指針)の改正において、「募集者に明示すべき条件」として追加されています。

国際自動車事件(賃金請求事件)(平成29年2月28日)

 歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の賃金規則上の定めが公序良俗に反し無効であると判断するのみで,当該賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かや,そのような判別をすることができる場合に,当該賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が同条その他の関係法令に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく未払賃金の請求を認容すべきものとした原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果,審理を尽くさなかった違法がある。

合格者(女性)

「割増賃金が判別できないから無効」なら分かる。でも「歩合給から割増賃金を控除する」っていう理由だけで無効とはいえないよ。通常の賃金と割増賃金が判別できているかどうかをしっかりと審議して、という差し戻し判断。

医療法人康心会事件(地位確認等請求事件 )(平成29年7月7日)

医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても,当該年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないという事情の下では,当該年俸の支払により,時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない

合格者(男性)

固定残業代の仕組み自体は無効ではない。ただし、通常の労働時間の賃金と割増賃金が判別可能であることが絶対条件。判別できなければ無効。労使の合意があっても、医師という高度な専門職であっても,年収1700万円でも無効。

判決文はこちら
労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される。 また,割増賃金の算定方法は,同条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下、これらの規定を「労働基準法37条等」という。)に具体的に定められているところ,同条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,労働者に支払われる基本給や諸手当(基本給等)にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない。 他方において,使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法3 7条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,同条の上記趣旨によれば,割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては,上記の検討の前提として,労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり,上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。 前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間においては,本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。そうすると,本件合意によっては,上告人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,上告人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。 したがって,被上告人の上告人に対する年俸の支払により,上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない

 

まとめ
●固定残業代とし、基本給に含める仕組み自体は違法ではない
●固定残業代を有効する必要条件は「通常の労働時間の賃金」部分と「割増賃金」部分の判別がつくこと
●上記の判別がつかない「固定残業代」の仕組みは無効。別途、割増賃金の支払が必要となる
●職業安定法の改正において、労働者募集の際に「基本給」「固定残業時間」「固定残業時間を超えた場合は追加で給与を支払う旨」を明示すべきことが指針で示されている。
 

解説動画はこちら。

 

労働(試用期間の性質)に関する判例

福原学園事件(労働契約上の地位確認等請求事件 )(平成28年12月1日)

私立大学の教員に係る期間1年の有期労働契約は,①当該労働契約において,3年の更新限度期間の満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは,これを希望する教員の勤務成績を考慮して当該大学を運営する学校法人が必要であると認めた場合である旨が明確に定められており,当該教員もこのことを十分に認識した上で当該労働契約を締結したものとみることができること,②大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていること,③当該学校法人が運営する三つの大学において,3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった教員も複数に上っていたことなど判示の事情の下においては,当該労働契約に係る上記3年の更新限度期間の満了後に期間の定めのないものとなったとはいえない

合格者(男性)

労働者側の主張は①「有期契約期間=試用期間」である、したがって②有期契約期間終了により当然に無期雇用契約に移行とする、というものでしたが、認められませんでした。その理由は、「3年で期間が満了する」ことについて当事者間の合意があったものとみることができるから、というものです。この判例と逆の結論になったのが次の判例です。その分岐は「合意」です。

神戸弘陵学園事件( 地位確認等 )(平成2年6月5日)

労働者の新規採用契約においてその適性を評価し、判断するために期間を設けた場合には、右期間の満了により右契約が当然に終了する旨の明確な合意当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。 試用期間付雇用契約により雇用された労働者が試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段異なるところはなく、試用期間満了時に本採用に関する契約書作成の手続も採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、当該雇用契約は解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。

合格者(男性)

本件では、採用時に「一応最初は1年だけど、30年でも40年でもウチで働いてほしい」といったことを社長から口頭で伝えられたそうです。労働者が働き続けることができると期待してもおかしくありません。すなわち「期間満了により契約が終了する旨の合意が認められる」という状況がありませんでした。結果、「有期契約期間=試用期間」という判断が示されました

まとめ
●試用目的の有期契約は、特段の事情がなければ、有期契約ではなく試用期間である(特段の事情とは、期間満了時に契約が終了する旨の明確な合意が成立していること)
●試用期間=解約権留保付雇用契約である
●本採用の拒否=ほぼ解雇であるため、解雇権濫用法理が当てはめられる(客観的、合理的、社会通念上の相当性)
●ただし、通常の解雇よりはハードルは低い
 
 

労働(採用)に関する判例

三菱樹脂事件(昭和48年12月12日)

・憲法一四条や一九条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。
・憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、 他方、二二条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一 環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるの であつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない
・労働基準法三条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない
・企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。
・労働基準法三条は、前記のように、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される。
・企業者が、大学卒業者を管理職要員として新規採用するにあたり、採否決定の当初においてはその者の管理職要員としての適格性の判定資料を十分に蒐集することができないところから、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、企業者において右期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したときは、その行使は、右解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解すべきである

合格者(男性)

企業には、経済活動の一環として行う契約締結の自由があり、自己の営業のためにどのような者をどのような条件で雇うかは、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由。

大日本印刷採用内定取消事件 (昭和54年7月20日)

・大学卒業予定者が、企業の求人募集に応募し、その入社試験に合格して採用内定の通知を受け、企業からの求めに応じて、大学卒業のうえは間違いなく入社する旨及び一定の取消事由があるときは採用内定を取り消されても異存がない旨を記載した誓約書を提出し、その後、企業から会社の近況報告その他のパンフレツトの送付を受けたり、企業からの指示により近況報告書を送付したなどのことがあり、他方、企業において、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかつたなど、判示の事実関係のもとにおいては、企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であつて、誓約書の提出とあいまつて、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。
・企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。
・企業が、大学卒業予定者の採用にあたり、当初からその者がグルーミーな印象であるため従業員として不適格であると思いながら、これを打ち消す材料が出るかも知れないとしてその採用を内定し、その後になつて、右不適格性を打ち消す材料が出なかつたとして留保解約権に基づき採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用にあたるものとして無効である。

合格者(男性)

大学卒業予定者の採用内定により、就労の始期を大学卒業直後とする解約権留保付労働契約が成立したものと認められた事例。内定取消は、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる

労働(配置)に関する判例

新日本製鐵事件 (平成15年4月18日)

出向命令の内容が、使用者が一定の業務を協力会社に業務委託することに伴い、委託される業務に従事していた労働者に対していわゆる在籍出向を命ずるものであって、就業規則及び労働協約には業務上の必要によって社外勤務をさせることがある旨の規定があり、労働協約には社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定があるという事情の下においては,使用者は,当該労働者に対し,個別的同意なしに出向を命ずることができる

合格者(男性)

使用者が労働者に対し個別的同意なしにいわゆる在籍出向を命ずることができるとされた事例。就業規則にも労働協約にも出向規定が定められ、社外勤務の定義、その処遇等に関して出向者の利益に配慮した詳細な規定が設けられている場合には、会社は従業員に、個別的に同意を得ることなく、在籍出向を命じることができるとしたもの。

東亜ペイント事件 (昭和61年7月14日)

・使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもない
・当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。

合格者(男性)

当該転勤命令につき、次のような特段の事情がある場合でない限りは、権利の濫用ではない。
【特段の事情】
・業務上の必要性がない場
・不当な動機・目的が認められる場合
・労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合

労働(処遇)に関する判例

秋北バス事件 (昭和43年12月25日)

使用者が、あらたな就業規則の作成または変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきである。
就業規則は、当該事業場内での社会的規範であるだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきである。

合格者(男性)

就業規則は、事業場内での社会的規範、法的規範であることから、その内容を現実に知っているか、個別的に同意しているか否かにかかわらず、その適用を受ける

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労働(賞与)に関する判例

大和銀行事件(昭和57年10月7日)

就業規則の「賞与は決算期毎の業績により各決算期につき一回支給する。」との定めが「賞与は決算期毎の業績により支給日に在籍している者に対し各決算期につき一回支給する。」と改訂された場合において、右改訂前から、年二回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し、右就業規則の改訂は単に従業員組合の要請によつて右慣行を明文化したにとどまるものであつて、その内容においても合理性を有するときは、賞与の支給日前に退職した者は当該賞与の受給権を有しない

合格者(男性)

賞与の支給日又は一定の基準日に在籍する者のみ賞与を支給するという取扱いは、有効であるとされた事例

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労働(その他)に関する判例

付加金に関する判例(平成27年5月19日)

労働基準法114条の付加金の請求については,同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは,民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとして,その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されない

合格者(男性)

訴訟手数料の計算基礎に、付加金の額は含めない、ということ。

山梨県民信用組合事件(退職金請求事件)(平成28年2月19日)

就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきである。

合格者(女性)

退職金が減額されることを、十分理解して頂いた上での判子でないと、労働条件の変更に同意してもらったということにならないよ、ということ。

行橋労基署長事件(遺族補償給付等不支給処分取消請求事件)(平成28年7月8日)

労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に,研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことが,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当たるとされた事例

合格者(男性)

仕事を中断し、上司からの要請で歓送迎会に一時参加→会社に戻る道すがら、上司に代わって同僚を会社の車で送っている最中の事故。 本件諸事情では、歓送迎会は事業活動に密接に関連するものであることから、当該事故の際に事業主の支配下にあったと判断された事案です

社会保険に関する判例

特別支給の老齢厚生年金決定取消請求事件(平成29年4月21日)

厚生年金保険法附則8条の規定による老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)について厚生年金保険法(平成24年法律第63号による改正前のもの)43条3項の規定による年金の額の改定がされるためには,被保険者である当該年金の受給権者が,その被保険者の資格を喪失し,かつ,被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失(現在は退職日)した日から起算して1月を経過した時点においても,当該年金の受給権者であることを要する

合格者(女性)

原告の主張「9月30日に退職改定の要件を充したから9月分の特別支給の老齢厚生年金の額を増やして欲しい」。最高裁判断「9月17日に65歳に達して特別支給の老齢厚生年金の受給権は消滅している。9月30日時点ですでに受給権者ではない。だから退職改定もない。」

解説動画はこちら。

 

障害年金請求事件(平成29年10月17日)

厚生年金保険法(昭和60年法律第34号による改正前のもの)47条に基づく障害年金の支分権(支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利)の消滅時効は,当該障害年金に係る裁定を受ける前であっても,厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行する。

合格者(男性)

支給要件に該当すれば受給権は自動的に発生する。これが基本権。しかし、それだけでは支払は始まらない。受給権者からの裁定請求を受けての保険者による裁定があってから、支払が行われる。これが支分権。裁定請求が遅れても、基本権には時効の影響はない。しかし、支分権がには時効が及ぶ。裁定時から過去5年分は遡って支払が行われるが、それより前の支払分は時効消滅する。

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執筆/資格の大原 社会保険労務士講座

金沢 博憲金沢 博憲

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