皆さん、こんにちは。
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正にまつわる通達「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の施行について」(基発0907第12号雇均発0907第2号平成30年9月7日)についての解説です。
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法とは
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の前身は、平成4年に制定された「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」といいます。
労働者全体の平均値で年間総実労働時間を1,800時間まで短縮させることを目標に、完全週休2日制の普及促進などの取り組みをするための法律でした。
結果、年間総実労働時間を1,800時間程度に短縮されましたが、それは短時間労働者の比率の上昇によるもので、正社員の年間総実労働時間は2,000時間を超えている状況だったのです。
「平均値が下がっても意味なくね?」という状況を受け、政府は「労働時間の短縮」の看板を下げます。
「臨時措置法」を衣替えし、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」を制定しました。
趣旨的には、長時間労働をなくしていこう、というのが軸です。
しかし、労働者全体の平均値でひたすら時短を目指すスタイルではなく、労働者の生活スタイルに見合った時間に改善することを、企業に促していこうというものになっています。
その改正の経緯はコチラ
年間総実労働時間は平成16年度には1834時間となり、時短促進法が掲げた1800時間という所期の目標をおおむね達成できたこと。
しかし、その内実をみると、全労働者平均の労働時間が短縮した原因は、主に、労働時間が短い者の割合が増加した結果であり、いわゆる正社員等については、依然として労働時間は短縮していないこと。
一方、労働時間が長い者と短い者の割合が共に増加し、いわゆる「労働時間分布の長短二極化」が進展しており、全労働者を平均しての年間総実労働時間1800時間という目標を用いることは時宜に合わなくなってきたこと。
そして、長い労働時間等の業務に起因した脳・心臓疾患に係る労災認定件数は高水準で推移していること。急速な少子高齢化、労働者の意識や抱える事情の多様化等が進んでいること。
このため、全労働者を平均しての一律の目標を掲げる時短促進法を改正し、労働時間の短縮を含め、労働時間等に関する事項を労働者の健康と生活に配慮するとともに多様な働き方に対応したものへと改善するための自主的取組を促進することを目的とする法としたものであること。
法で定めれている措置の内容は、いずれも企業の自主的努力に委ねられるもので、罰則もなく、実効性に課題が残るといわれています。
その目的条文はこちら。
この法律は、我が国における労働時間等の現状及び動向にかんがみ、労働時間等設定改善指針を策定するとともに、事業主等による労働時間等の設定の改善に向けた自主的な努力を促進するための特別の措置を講ずることにより、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、もって労働者の健康で充実した生活の実現と国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
それでは通達の内容です。
はじめに
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号。以下「整備法」という。)の公布については、平成30年7月6日付け基発0706第1号・職発0706第2号・雇均発0706第1号「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律について」により通知したところであるが、整備法による改正後の労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号。以下「新設定改善法」という。)及び働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令(平成30年厚生労働省令第112号)による改正後の労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則(平成4年労働省令第26号。以下「新設定改善則」という。)の内容等は以下のとおりであるので、これらの施行に遺漏なきを期されたい。
改正の概要
1 勤務間インターバルの努力義務化(新設定改善法第1条の2及び第2条第1項関係)
(1)趣旨
勤務間インターバル(前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することをいう。以下同じ。)については、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることを可能にする制度であり、その普及促進を図る必要がある。
このため、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法を改正し、勤務間インターバルを事業主の努力義務としたものであること。
(2)「労働時間等の設定」の定義(新設定改善法第1条の2第2項関係)
「労働時間等の設定」の定義に深夜業の回数、終業から始業までの時間を加え、「労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から始業までの時間その他の労働時間等に関する事項を定めることをいう。」と改めたものであること。
(3)事業主の責務(新設定改善法第2条第1項関係)
事業主がその雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るための責務として、「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」を規定したものであること。
2 取引上配慮すべき事項(新設定改善法第2条第4項関係)
(1)趣旨
整備法による改正前の労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(以下「旧設定改善法」という。)においては、労働時間等の設定の改善の取組が他の事業主によって阻害されることのないよう、事業主が他の事業主との取引を行う場合において配慮すべき事項について規定しているところであるが、依然として、取引先からの短納期発注や頻繁な仕様変更等により長時間労働を余儀なくされている実態が認められることから、事業主が取引上配慮すべき事項について改正したものであること。
個々の企業の努力だけでは限界がある。取引先からの急な短納期発注(週末発注週明け納品など)などが長時間労働の要因。そういうのはできるだけやめましょう、という規定
(2)具体的な配慮事項(新設定改善法第2条第4項関係)
事業主が他の事業主との取引を行う場合において配慮するように努めなければならないこととして、著しく短い期限の設定及び発注の内容の頻繁な変更を行わないことを追加したものであること。
3 労働時間等設定改善委員会の決議に係る労働基準法の適用の特例(新設定改善法第7条関係)
(1)労働時間等設定改善委員会の議決により労使協定に代替することができる事項(新設定改善法第7条関係)
①整備法による改正後の労働基準法(昭和22年法律第49号)第32条の3第2項及び第3項の規定により読み替えて適用する場合の同条第1項に規定する事項並びに②同法第36条第1項、第2項及び第5項に規定する事項を、労働時間等設定改善委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により労使協定に代替することができる事項として追加したものであること。
改正労基法で労使協定が必要になったものも代替可能。代替できないのは、「任意貯金」「全額払の例外」「年休中の賃金」
(2)一定の要件を満たす衛生委員会を労働時間等設定改善委員会とみなす規定の廃止(旧設定改善法第7条第2項関係)
旧設定改善法第7条第2項においては、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第18条第1項の規定により設置された衛生委員会のうち一定の要件を満たすものを労働時間等設定改善委員会とみなす規定を設けていたところであるが、労働時間等の設定の改善を図るための措置についての調査審議機会をより適切に確保する観点から、当該規定を廃止したものであること。
4 労働時間等設定改善企業委員会(新設定改善法第7条の2及び新設定改善則第4条関係)
労働時間等設定改善を推進するためには、企業内において労働時間等をめぐる様々な問題について労使が日常的に話し合うとともに、話合いの成果を適切に実施するための体制を整備することが必要であることから、労働時間等設定改善のための施策等に関し労使協議を行う委員会の設置等企業内の労働時間等設定改善実施体制の整備を事業主の努力義務としている。
そして、企業内の労働時間等設定改善に向けての話合いの成果をその企業の労働時間の諸制度に活かしていくことが重要であることから、一定の要件に適合する労働時間等設定改善委員会は、労使協定に代えて、その委員の5分の4以上の多数による議決により、変形労働時間制や時間外及び休日の労働等について決議を行い、実施することができる。
また、当該労働時間等設定改善委員会については、厳格な要件を課しており適正な運営が担保されていることから、その決議について労働基準監督署長への届出を免除(ただし、時間外及び休日の労働に係る決議を除く。)する。
元々、事業場単位で「労働時間等設定改善委員会」を設けることが可能でしたが、今次改正で、企業単位での設置も法制化されました。
(1)趣旨
各企業における労働時間、休日及び休暇等の改善に向けた労使の自主的取組を一層促進するため、企業単位で設置される労働時間等設定改善委員会を明確に位置づけ、同委員会における決議に法律上の特例を設けることとしたものであること。
(2)労働時間等設定改善企業委員会の要件及び役割(新設定改善法第7条の2及び新設定改善則第4条関係)
ア 労働時間等設定改善企業委員会の設置に当たっては、事業場ごとに、当該事業場における労働時間等の設定の改善に関する事項について、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、全部の事業場を通じて一つの委員会であって、次の1から3までの要件に該当するもの(労働時間等設定改善企業委員会)に調査審議させ、事業主に対して意見を述べさせることを定める必要があること。なお、2及び3については、新設定改善則第2条及び第3条の規定が準用されるものであること。
個々の事業場の実情に即したものにするため、企業委員会の決議に委ねる旨の各事業場ごとの協定が必要。
①全部の事業場を通じて一つの委員会の委員の半数については、当該事業主の雇用する労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名されていること。
②全部の事業場を通じて一つの委員会の議事について、厚生労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されていること。
③1及び2に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件
イ 労働時間等設定改善企業委員会において、その委員の5分の4以上の多数による議決により、代替休暇(労働基準法第37条第3項)、年次有給休暇の時間単位取得(同法第39条第4項)及び計画的付与制度(同条第6項)に関する事項について決議が行われたときは、当該決議はこれらの事項に関する事業場ごとの労使協定と同様の効果を有するものであること。
「おやすみ」関係に限って代替できる。本来は事業場ごとの労使協定の締結が必要であるため、企業単位の決議を野放図に広げることはできない。
5 施行期日及び経過措置(整備法附則第1条及び第10条関係)
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法に係る改正規定の施行期日は、平成31年4月1日であること。
なお、経過措置として、旧設定改善法第7条第2項の規定により労働時間等設定改善委員会とみなされた衛生委員会(労働安全衛生法第19条第1項の規定により設置された安全衛生委員会を含む。)の旧設定改善法第7条第1項に定める決議については、平成34年3月31日(平成31年3月31日を含む期間を定めているものであって、その期間が平成34年3月31日を超えないものについては、その期間の末日)までの間は、なおその効力を有するものであること。
執筆/資格の大原 社会保険労務士講座
「時間の達人シリーズ社労士24」「経験者合格(旧上級)コース」を担当致しております。
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