【日本郵便事件】最高裁判決「契約社員に扶養手当がない」など5つの手当の格差につき不合理と判断

みなさん、こんにちは。

金沢博憲(社労士24)です。

10月15日に判決が出た「日本郵便事件」の概要と争点についてです。

年末年始勤務手当、病気休暇,夏期・冬季休暇、扶養手当などについて争われています。

なお、13日には、同じく正規・非正規間の待遇格差(賞与・退職金の支給の有無)の合理性について争われた裁判の判決が2つ出されています。

そして15日、最高裁は、正社員と契約社員の間にある「年末年始の勤務手当病気休暇夏期休暇・冬期休暇祝日給扶養手当に係る労働条件の相違について、不合理な格差」という判断を示しました。

「職務内容等に違いがある」としながらも、「待遇の趣旨を個別に考慮」した結果、不合理判定が下されています。
 
「職務内容等に違いがある」ため「不合理とまではいえない」とされた賞与、退職金とは逆の結論となりました。
 
複合的な趣旨を持つ退職金や賞与(突き詰めれば正社員という身分に対して払っている)に比べ、手当は「こういう目的で払っている」という趣旨や目的が比較的明確なものが多く、職務内容等の各事情を踏まえた上での不合理性の判断はしやすい面はあったでしょう。
 
「賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」として、手当の相違の多くが不合理とされたハマキョウレックス事件の流れに沿う判断と考えられます。
 
また、日本郵便訴訟では、その被告企業固有の手当の争いが多く、その企業としては大事ですが、世の中全体に与える影響は、限定的という判断をあったのではないかと勝手に考えています。
 
これが、賞与や退職金となると、金額も高額ですし、また世の中のほとんどの企業に影響を与えることになります。不合理判定により、全国2000万件の訴訟ラッシュを引き起こすという懸念もちょっとはあったのではないか、という、まあ個人の想像です。
 
メトロコマース事件の判決でも、退職金に関する補足意見として「退職金制度の構築に関し,これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は,比較的大きい」と言及されており、経営への配慮が滲んでいます。
 
と同時に、別の裁判官の補足意見として「4分の1くらいなら払ってもいいんじゃないか」という労働者側に寄り添う言及があり、裁判官の間でも意見が分かれる部分はあったようです。
 
それでは、まず、事件の概要、高裁判決、そして、最高裁での争点を確認します。
 
↓動画版(30分)もあります↓
 
 
東京、大阪、佐賀の高裁判決をまとめて審理・判決することになったため、内容が一部重複する形になっています。

日本郵便格差訴訟①

事件の概要

本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結して勤務している第1審原告らが,期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している労働者(正社員)と第1審原告らとの間で,年末年始勤務手当,病気休暇,夏期休暇及び冬期休暇等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの)に違反するものであったと主張して,第1審被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償を求めるなどの請求をする事案である。

原判決及び争点

原判決(東京高裁)は,①年末年始勤務手当の支給の有無及び私傷病による病気休暇を有給とするか無給とするかに関する労働条件の相違について,いずれも労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの)にいう不合理と認められるものに当たるとして,これらに係る損害賠償請求の一部を認容し,②夏期休暇及び冬期休暇の付与の有無に関する労働条件の相違について,同条にいう不合理と認められるものに当たるとした上で,第1審原告らにこれによる損害が生じたとはいえないとして,これに係る損害賠償請求を棄却した。

日本郵便格差訴訟②

事件の概要

本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結して勤務し,又は勤務していた第1審原告らが,期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している労働者(正社員)と第1審原告らとの間で,年末年始勤務手当,祝日給,扶養手当,夏期休暇及び冬期休暇等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの)に違反するものであったと主張して,第1審被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償を求めるなどの請求をする事案である。

原判決及び争点

原判決(大阪高裁)は,①年末年始勤務手当及び年始期間(祝日を除く1月1日~3日)の勤務に対する祝日給の支給の有無に関する労働条件の相違について,有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超えていた時期に限り,労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの)にいう不合理と認められるものに当たるとして,損害賠償請求の一部を認容し,②扶養手当の支給の有無に関する労働条件の相違について,同条にいう不合理と認められるものに当たらないとして,損害賠償請求を棄却し,③夏期休暇及び冬期休暇の付与の有無に関する労働条件の相違について,同条にいう不合理と認められるものに当たることを前提に,第1審原告らに上記の休暇の日数分の賃金に相当する額の損害が発生したとして,損害賠償請求を認容した。
本件における争点は,上記①及び②につき,労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの)にいう不合理と認められるものに当たるか否か,上記③につき,損害が生じたといえるか否かである。

最高裁の判決

15日、最高裁は、正社員と契約社員の間にある「年末年始の勤務手当、病気休暇、お盆と年末年始の休暇、祝日の賃金、扶養手当に係る労働条件の相違について、不合理な格差」という判断を示しました。

詳細は判決文をみてからですね。

年末年始勤務手当,年始期間の勤務に対する祝日給及び扶養手当

 無期契約労働者に対して年末年始勤務手当,年始期間の勤務に対する祝日給及び扶養手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれらを支給しないという労働条件の相違がそれぞれ労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとされました。

年末年始勤務手当

まず、年末年始勤務手当について考察します。

その性質・目的は

・最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有する
・正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず,所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするもの

としています。

そして

・職務の内容→相違がある(時給制契約社員は,特定の業務のみに従事し,各事務について幅広く従事することは想定されておらず,昇任や昇格は予定されていない)
・変更の範囲→相違がある(時給制契約社員は,職場及び職務内容を限定して採用されており,正社員のような人事異動は行われない)
・その他の事情→正社員登用制度がある

という事情があると評価しています。

その上で、

年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば,これを支給することとした趣旨は,郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。そうすると,郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができる

と”不合理”判定の判断しています。

つまり、年末年始勤務手当の趣旨は、「多くの労働者が休日として過ごしている期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価」であるため、「職務の内容等につき相応の相違がある」としても、正社員と同じく年末年始に実際に勤務した契約社員に支給がないのは不合理、という判断です。

「職務の内容等につき相応の相違があるとしても不合理」というのが、ポイントです。

一連の判決では、メトロ、大阪医科大、日本郵便のいずれも「職務内容等には相違がある」としています。

それでも結論が分かれたのは「待遇ごとの趣旨」の違いです。

年末年始手当は「年末年始に勤務する」という”行為”が支給要件であるため、同じ”行為”をした契約社員に支給がないのは不合理、という展開です。

一方、退職金と賞与は、「正社員の定着目的」、突き詰めると「正社員(相当)であること」という”身分”を支給要件と評価しています。従って、正社員と職務内容等が同一でない限りは、契約社員に支給がないことは不合理とまではいえない、という展開になっています。

年始期間の勤務に対する祝日給

次に、祝日給について考察します。

その性質・目的は

・年始期間については,郵便の業務を担当する正社員に対して特別休暇が与えられており,これは,多くの労働者にとって年始期間が休日とされているという慣行に沿った休暇を設けるという目的によるもの
・年始期間の勤務に対する祝日給は,特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことについて,その代償として,通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたもの

その上で

・職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,上記祝日給を正社員に支給する一方で本件契約社員にはこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができる

という”不合理”判断しています。

つまり、年始期間の勤務に対する祝日給は、「年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨」であるため、「職務の内容等につき相応の相違がある」としても、同じく年始に勤務した契約社員に支給がないのは不合理、という判断です。

やはり「職務の内容等につき相応の相違があるとしても不合理」というのが、ポイントです。

扶養手当

次に、扶養手当について考察します。

その性質・目的は

・正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的
・契約社員についても,扶養親族があり,かつ,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべき

としています。

その上で、

職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができる

という”不合理”判断しています。

つまり、扶養手当の支給の趣旨は、「正社員には長く働いてもらうことを期待しているから、扶養親族がある者の生活に余裕を持たせることで、長く働いてもらう目的」であるため、「職務の内容等につき相応の相違がある」としても、扶養親族があり,かつ,相応に継続的な勤務が見込まれる契約社員に支給がないのは不合理、という判断です。

やはり「職務の内容等につき相応の相違があるとしても不合理」というのが、ポイントです。

”判決文の全文”

私傷病の有給休暇

私傷病による病気休暇として無期契約労働者に対して有給休暇を与える一方で有期契約労働者に対して無給の休暇のみを与えるという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例です。

私傷病の有給休暇について考察します。

その性質・目的は

・正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的
・郵便の業務を担当する時給制契約社員についても,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべき

としています。

そして

・職務の内容→相違がある
・変更の範囲→相違がある
・その他の事情→正社員登用制度がある

という事情があると評価しています。

その上で、

職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく,これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができる

と判断しています。

つまり、私傷病の有給休暇の趣旨は、「私傷病の療養に専念させることを通じて」「継続的な雇用を確保するという目的」であるので、「職務の内容等につき相応の相違がある」としても、「日数につき相違を設けることはともかく」、相応に継続的な勤務が見込まれている契約社員の休暇を無給とするのは不合理、という判断です。

”判決文の全文”

夏期休暇及び冬期休暇

無期契約労働者に対しては夏期休暇及び冬期休暇を与える一方で有期契約労働者に対してはこれを与えないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例です。

夏期休暇及び冬期休暇について考察します。

その性質・目的は

・年次有給休暇や病気休暇等とは別に,労働から離れる機会を与えることにより,心身の回復を図るという目的
・時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされるなど,繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって,夏期冬期休暇を与える趣旨は,上記時給制契約社員にも妥当するというべき

としています。

そして

・職務の内容→相違がある(人事評価においては,担当業務についての評価がされるのみ)
・変更の範囲→相違がある(時給制契約社員は,担当業務に継続して従事し,郵便局を異にする人事異動は行われず,昇任や昇格も予定されていない)
・その他の事情→

という事情があると評価しています。

その上で、

郵便の業務を担当する正社員と同業務を担当する時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に夏期冬期休暇に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができる

と判断しています。

つまり、夏期休暇及び冬期休暇の趣旨は、「労働から離れて心身の回復」であり、「職務の内容等につき相応の相違がある」としても、短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている(疲労がたまり休息を必要とする)契約社員に休暇がないのは不合理、という判断です。

”判決文の全文”

まとめ

日本郵便訴訟では、
・年末年始勤務手当
・病気休暇
・夏期・冬期休暇
・祝日給
・扶養手当 に係る相違について「不合理な格差」という判断を示した。

「職務内容等に違いがある」としながらも、それぞれ「待遇の趣旨を個別に考慮」の上、不合理とされている。

【待遇の趣旨】
・年末年始勤務手当→年末年始に勤務したことへの対価
・祝日給→年始に勤務したことへの対価
→同じ時期に勤務した契約社員に支給がないのは不合理

・夏期・冬期休暇→疲れをとる目的
・扶養手当→家族を持つ者への生活支援を通じ長く働いてもらう目的
・病気休暇→治療に専念してもらい長く働いてもらう目的

→ある程度長く働く見込みの契約社員に支給がないのは不合理

という判断になった。

一方、メトロ・大阪医科大訴訟では

・退職金・賞与→正社員を定着させる目的
→正社員と職務内容等に一定の相違がある契約社員に支給がないのは不合理とまではいえない

という判断。

執筆/資格の大原 社会保険労務士講座

金沢 博憲金沢 博憲

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