皆さん、こんにちは。
今回は、随時改定の取扱の改正をご紹介します。
今回の随時改定の保険者算定(年間算定)の改正趣旨は、ざっくりいえば、「昇給時期と、繁忙期が重なった結果、随時改定により等級が実態以上に跳ね上がる」のを回避する狙いです。
昇給時期と繁忙期が重なると、次のような事例が発生します。
昇給時期と繁忙期が重なると等級が跳ね上がる
随時改定とは、固定的賃金の変動に伴い、その月以後3か月間の報酬の月平均額が変動前に比較して標準報酬月額等級に2等級以上の差が生じている場合、上記 3 か月目の翌月から標準報酬月額が改定するものです。
図解を御覧ください。
7月に昇給があり、かつ、7月から9月にかけて繁忙期が訪れて、残業手当が激増する、という事業所を想定しています。
7月に30万円→31万円の昇給があった場合は、7月から9月までの3ヶ月間で報酬月額を算出します。
算出の際は固定的賃金と残業手当などの非固定的賃金を合計して計算します。
事例でいうと、固定給31万円と残業手当10万円をベースにするため、3ヶ月間の月平均額は41万円となります。
結果、従前の標準報酬月額30万円と比べて、2等級以上の差となるため、随時改定が行われて、10月からの標準報酬月額が41万円になります。
これは当事者からすると、「ちょっと納得がいかない」話なのです。
繁忙期以外の普段の実報酬は、残業手当がついて1万円程度ですから、昇給後においても32万円程度です。
にもかかかわず昇給と繁忙期が重なった7月から9月までの41万円で報酬月額が算出されてしまった結果、実態と10万円近くの乖離が発生してしまっているのです。
31万円の報酬の労働者が、41万円ベースで保険料を計算されるのは、実態以上の保険料負担を強いられることになり、たまったものではありません。
もし昇給時期が繁忙期に重なっていなければ、このような標準報酬月額の爆上げは発生しなかったはず。昇給時期のズレで差が生じるのは不公平だ。見直してもらいたい。
と、ある労働者から、総務省に取扱改善の相談が入り、総務省から厚生労働省に見直しのあっせんが行われました。
そんな状況で行われたのが今回の改正です。
すなわち、標準報酬月額の算定が、より実態に即した取扱いとなるよう、定時決定と同様に、随時改定においても、報酬の月平均額と、年間の報酬の月平均額とが著しく乖離する場合、保険者算定を行う=年間平均額を用いることとしたものです。
この年間平均額を用いる保険者算定の取扱は、以前から定時決定では認められていましたが、今回の改正により、随時改正でも認められることになったものです。
その具体的な要件をみてみましょう。
具体的な要件
通達の文章はこんな感じです。
3か月間の報酬の平均から算出した標準報酬月額(通常の随時改定の計算方法により算出した標準報酬月額)と、昇給月又は降給月以後の継続した3か月の間に受けた固定的賃金の月平均額に昇給月又は降給月前の継続した9か月及び昇給月又は降給月以後の継続した3か月の間に受けた非固定的賃金の月平均額を加えた額から算出した標準報酬月額(年間平均額から算出した標準報酬月額)との間に2等級以上の差があり、当該差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合であって、現在の標準報酬月額と年間平均額から算出した標準報酬月額との間に1等級以上の差がある場合は、保険者算定により年間平均額から算出した標準報酬月額とするものです。
ただし、本取扱いは、例年特定の時期に残業が多くあるなど非固定的賃金が通常の時期より多く支払われた場合に固定的賃金が増加した場合等について措置するものであり、単に固定的賃金が大きく増減し、その結果、2等級以上の差が生じる場合は、本取扱いの対象外となります。
スミマセン。日本語でお願いします。
少しでもわかりやすくするため、要件を分解すると次の4つになります。
①現在の標準報酬月額と通常の随時改定による標準報酬月額との間に2等級以上の差があること
②通常の随時改定による標準報酬月額と年間平均額から算出した標準報酬月額との間に2等級以上の差があること
③当該差が業務の性質上例年発生することが見込まれること
④現在の標準報酬月額と年間平均額から算出した標準報酬月額との間に1等級以上の差があること
年間平均額の算出の仕方については、以下の事例でイメージを掴んでください。
年間平均額から算出した標準報酬月額の計算
下記の①と②の合計額が、年間平均額から算出した標準報酬月額となります。
①昇給月以後の3ヶ月間の固定的賃金の月平均額
まず、昇給月以後の3ヶ月間の固定的賃金の月平均額を算出します。
7月から9月までの固定的賃金で計算する結果、31万円になります。
②非固定的賃金の月平均額
次に、昇給月以後3ヶ月間の非固定的賃金と、昇給月前9ヶ月の非固定的賃金を合計して、非固定的賃金の月平均額を算出します。
前年10月から9月までの非固定的賃金で計算する結果、3万円となります。
つまり年間の月平均額にならすにしても、昇給前の固定給を含めるのは妥当ではないから、「非固定的賃金」の部分だけならす、ということね。
両者を合計した額が、年間平均額から算出した標準報酬月額となります。34万円です。
これを、先程の「通常の随時改定による標準報酬月額」と比べます。
通常の随時改定による標準報酬月額41万円に対して、年間平均額から算出した標準報酬月額は34万円。
2等級以上の差が生じています。
保険者算定の対象になる結果、10月以降の標準報酬月額は34万円となり、実態に近い標準報酬月額が適用されることになります。
施行期日
この取扱いについては、平成30年10月1日以降の随時改定から適用されます。
定時決定にも特例あり
年間平均額との乖離がある場合の特例は定時決定にも設けられています。
要件は次のとおりです。
①4月、5月、6月の報酬の月平均額と前年7月~6月の報酬の月平均額を比較して2等級以上の差が生じること
②業務の性質上例年発生することが見込まれること
この場合、年間平均額を報酬月額として標準報酬月額が決定されます。
年間平均額を使う特例を定時決定と随時改定で比較すると、異なるのは、年間平均額の計算の仕方です。
年間平均額の計算する際、定時決定においては、前年7月~6月の固定的賃金と非固定的賃金で、一括して計算します。
一方で、随時改定においては、固定的賃金と非固定的賃金を”分離”して計算します。
固定的賃金は変動月以後の3か月で計算し、非固定的賃金は年間平均額で計算し、最後に合算します。
固定的賃金も年間平均額で計算すると、昇給(降給)前に固定的賃金も含まれてしまうため、適当ではないためです。
まとめ
●随時改定でも、年間平均額を用いた保険者算定が認められることになった
●要件の柱は、通常の方法による額と年間平均額に2等級以上の差が生じること
●施行日は2018年10月から
執筆/資格の大原 社会保険労務士講座
「時間の達人シリーズ社労士24」「経験者合格コース」を担当致しております。
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