【労働者派遣法改正2020】派遣先均等・均衡方式と労使協定方式【同一労働同一賃金】

働き方改革の2本柱「時間外労働の上限規制」と「同一労働同一賃金」。

その同一労働同一賃金についてはまとめています。

まずは働き方改革の全体像を次の動画で掴んでいただくと、より分かり味が深くなるかも知れません。

同一労働同一賃金の適用対象は、パートタイム労働者、有期雇用労働者、そして派遣労働者です。

このうち、派遣労働者の待遇を決定するための2つの方式(「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」)の概要を解説するとともに、派遣労働者の待遇決定方式を選択する際の点検・検討の手順を解説しています。

また、派遣労働者の待遇決定後に求められる取組の概要についても解説しています。

まずは動画解説でイメージを掴んだ上で、以下の解説をご覧いただくと、分かり味が深くなると思います。

1章 待遇決定に向けた取組の全体像

派遣労働者の待遇決定に向けたプロセスは、大きく分けると「①待遇決定方式の選択プロセス」、「②派遣労働者の待遇決定プロセス」、「③契約締結等のプロセス」の3つから構成されます。

①待遇決定方式の選択プロセス

派遣労働者の待遇を決定する際には、「派遣先均等・均衡方式」もしくは「労使協定方式」のいずれかによる必要があります。

②派遣労働者の待遇決定プロセス

①で選んだ方式に基づき、派遣労働者の待遇を決定します。
この場合の待遇とは、基本給、賞与、手当、福利厚生等全ての待遇が対象になります。

③契約締結等のプロセス

②で派遣労働者の待遇が決定したら、その待遇に基づいた契約を締結する必要があります。

2章 待遇決定方法の選択プロセスについて

1.「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の概要

派遣労働者の待遇を決定する方法は、「派遣先均等・均衡方式」及び「労使協定方式」の2つの方式があります。

ここでは、それぞれの方式の概要について説明します。

A.「派遣先均等・均衡方式」

「派遣先均等・均衡方式」とは、派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇を実現する方式です。

この方式のポイントは、以下の4点です。

①派遣労働者の待遇は、派遣先の通常の労働者と比較して「均等待遇」、「均衡待遇」が図られていることが求められます。

②均等待遇あるいは均衡待遇が求められるのは、基本給、賞与、手当、福利厚生、教育訓練、安全管理等の全ての待遇です。

③均等待遇あるいは均衡待遇のどちらを求められるかは、派遣労働者と比較対象となる派遣先の通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、が同じかどうかにより決まります。

④均等待遇の場合は、同一の待遇決定方法であることが求められます。
均衡待遇の場合は、不合理な待遇差であるかどうかは、個々の待遇ごとに、待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されます。

 

B.「労使協定方式」

「労使協定方式」とは、派遣元において、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数代表者と一定の要件を満たす労使協定を締結し、当該協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式です。

この方式のポイントは、以下の3点です。

①対象となる待遇は、基本給・賞与・手当・退職金からなる「賃金」と「賃金以外の待遇」です。

②「賃金」については、以下の条件を満たす決定方法をとる必要があります。

○派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であること

○職務の内容に密接に関連して支払われる賃金(通勤手当等を除きます。)は、派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に改善されること

③「賃金以外の待遇」については、派遣元の通常の労働者(派遣労働者を除きます。)と比較して「不合理な待遇差」が生じないようにすることが求められます。
ただし、「賃金以外の待遇」のうち、派遣先が実施/付与する待遇は、「労使協定方式」の対象から除かれ、派遣先の通常の労働者との均等・均衡を図る必要があります。

この待遇には、以下の2つが該当します。

○派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対し、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練

◯派遣先の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設のうち、業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるもの(給食施設、休憩室、更衣室)

 

以上のように、派遣労働者の待遇決定においては、2つの方式のいずれを選択するかにより、比較対象労働者や待遇決定の考え方が異なります。

その内容は図表 2-2 の通りです。

2.方式決定の際のポイント

派遣労働者と派遣先の通常の労働者との均等待遇、均衡待遇が図れていることが重要です。

他方、賃金は企業によって異なり、一般的に大企業ほど高く、小規模の企業ほど低い傾向にあるため、「派遣先均等・均衡方式」だけですと、同種の職務を担っていても派遣先によって賃金が変化する可能性があります。
また、賃金の高い派遣先ほど高度な業務に従事するとは限らないため、結果として、中長期的なキャリア形成を妨げる恐れがあります。

このような状況を踏まえ、「派遣先均等・均衡方式」に加えて、労使の合意によって賃金を決定する「労使協定方式」が設けられました。

これまで説明したように「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」は選択制ですが、労使協定が結ばれていない場合は、「派遣先均等・均衡方式」となります。

また、労使協定を結んでいても、労使協定に定められた賃金水準が守られていなかったり、公正な評価が行われていなかったりする場合は、「労使協定方式」は適用されず、「派遣先均等・均衡方式」となります。

3.「労使協定方式」の対象となる労働者の選定と就業規則の改定

同じ派遣元の中で、ある派遣労働者には「派遣先均等・均衡方式」を適用し、ある派遣労働者には「労使協定方式」を適用することは差し支えありません。

しかし、その際には、派遣労働者に不利益となる恣意的な運用を避けるため、派遣労働者の職務の内容や雇用契約期間等を勘案し、それぞれの待遇決定方式の対象となる労働者の範囲を慎重に検討し、明確に定めておくことが重要です。

なお、「労使協定方式」では、対象となる労働者の範囲を労使協定で明示的に定めることとされています。

さらに労働基準法第89条が、「賃金の決定、計算及び支払の方法」を就業規則に必ず記載しなければならないと定めていることから、待遇決定方式を決定した後には、以下の事項について、就業規則に明記しておくことが望まれます。
・適用する待遇決定方式について
・適用した待遇決定方式の対象となる派遣労働者について

また、作成した就業規則は、常時各作業場の見やすい場所に掲示する、配布するなどにより労働者に周知させなければなりません。
周知に当たっては、派遣労働者の場合、通常は派遣先で働いており、派遣元の事業所に来ることは少ないことから、一人ひとりに配布することが望まれます。

3章 契約締結等のプロセスについて

1.労働者派遣契約の締結

それぞれの方式に基づき派遣労働者の待遇を決定したら、労働者派遣契約を締結する必要があります。

待遇確保に必要な費用を明確にし、その根拠を基に派遣先と交渉を行ってください。

労働者派遣契約において記載すべき事項(図表 2-3)を確認し、労働者派遣契約の締結(変更)を行いましょう

「労使協定方式」を選択した場合には、その対象となる派遣労働者(以下、「協定対象派遣労働者」といいます。)の範囲や協定の有効期間を、派遣元と派遣先の双方で確認することが重要です。

今回の法改正によって、従来から定められている事項に加え、以下の 2 点を労働者派遣契約で定めることが必要になりました。
・派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度(役職等)
・派遣労働者を協定対象労働者に限るのか否か

2.労働契約の締結に当たって求められる待遇情報等の明示・説明

労働契約の締結に当たっては、派遣元は派遣労働者に対し、あらかじめ待遇に関する情報等を明示・説明することが必要です。今回の改正により、従来の明示・説明事項に加えて新たに追加された事項があるので注意してください。

A.雇入れ時に明示・説明すべき事項

労働契約を締結する前に、労働者に対して図表 2-4 に示す事項を説明する必要があります。

【図表 2-4 雇入れ時(労働契約締結前)に説明すべき事項】

・雇用された場合の賃金の見込み額などの待遇に関すること
・派遣元事業主の事業運営に関すること
・労働者派遣制度の概要

労働契約の締結時には、派遣労働者に対し、書面などにより労働条件(賃金・休日など)や派遣労働者であること、派遣料金を明示する必要があります。
今回の法改正により、従来定められていた事項に加えて、図表 2-5 に示す待遇情報の明示が必要となっています。

【図表 2-5 雇入れ時(労働契約締結時)に書面等で明示すべき事項】

・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・協定対象労働者であるか否か(対象である場合、協定の有効期間の終期)
・苦情の処理に関する事項

これらの事項の明示は、文書(書面)の交付によって行うことが義務付けられています。
派遣労働者が希望した場合には、ファクシミリ又は電子メール等の方法でも差し支えありません。

また、労働契約締結時には、不合理な待遇差を解消するために講ずることとしている措置の内容(図表2-6)について説明することも求められます。説明は、書面の活用その他の適切な方法により行う必要があります。

【図表 2-6 雇入れ時(労働契約締結時)に説明すべき事項】

・「派遣先均等・均衡方式」により講ずることとしている措置の内容
・「労使協定方式」により講ずることとしている措置の内容
・職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金(※)決定するか
※職務の内容に密接に関連して支払われる賃金以外の賃金(例えば、通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当)は除きます。

B.派遣時に明示・説明すべき事項

派遣先が決定した派遣労働者に対しては、就業前に待遇情報等及び就業条件の明示・説明が必要となります。

今回の法改正により、従来定められている事項に加えて、図表 2-7 に示す待遇情報の明示が必要となっています。

【図表 2-7 派遣時に書面等で明示すべき事項】
・賃金等に関する事項(退職手当及び臨時に支払われる賃金以外)
・休暇に関する事項
・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・協定対象派遣労働者であるか否か(対象である場合、協定の有効期間の終期)
※「労使協定方式」の場合は、協定対象派遣労働者であるか否か(対象である場合、協定の有効期間の終期)のみの明示が必要です。
※上記の他、労働者派遣をしようとする旨、業務内容、派遣期間制限の抵触日等、従来から必要とされている事項についても明示が必要です。

また、派遣時には、不合理な待遇差を解消するために講ずることとしている措置の内容について改めて説明することも求められます。説明すべき事項は図表 2-6と同様です。

C.派遣労働者の求めに応じて対応すべき事項

派遣労働者から求めがあった際には、派遣元は選択した待遇決定方式に応じ、以下に示す待遇決定に当たり考慮した事項等を説明する必要があります。また、派遣元は、説明を求めたことを理由に派遣労働者に対して不利益な取扱いをすることを禁止されています。

【「派遣先均等・均衡方式」を選択した場合】

比較対象労働者との間の待遇の相違の内容及び理由について説明する必要があります。具体的には、図表 2-8 に示す事項を説明してください。

【「労使協定方式」を選択した場合】

派遣労働者に対して、労使協定を決定するに当たって考慮した事項等について説明する必要があります。
具体的には、以下の事項等になります。

これらの説明については、資料を活用しながら、口頭で直接説明することが基本となります。

労使協定も提示しながら、派遣労働者が内容を理解できるよう、丁寧に説明してください。
ただし、説明事項が漏れなく記載された、わかりやすい資料があれば、必ずしも口頭で直接説明する必要はなく、資料の提供だけでも差し支えありません。

なお、今回の改正によって、派遣元管理台帳及び派遣先管理台帳に、協定対象派遣労働者か否かの別と派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度を新たに記載することが必要になりました。

責任の程度については、具体的には、派遣労働者が派遣先で予定されている役職(係長相当、アシスタント等)、協定対象派遣労働者か否かの別を記載してください。

3.関係者への情報提供

上記以外に取り組むべき事項として、関係者への情報提供があります。労働者派遣法では、以下のように定められています。

・「派遣先均等・均衡方式」の場合には、関係者に対し、原則インターネットにより、労使協定を締結していない旨を情報提供すること
・「労使協定方式」の場合には、関係者に対し、原則インターネットにより、労使協定を締結していること、対象となる派遣労働者の範囲、有効期間の終期について情報提供すること

 

4章 待遇決定に当たっての留意事項

1.求められる労使間の情報共有と話し合い

不合理な待遇差があるかを点検し、その解消に取り組むに当たっては、労使で情報を共有し、話し合うなどによって合意形成を図ることが重要です。

特に「労使協定方式」を採用する場合には、過半数の労働者の加入する労働組合あるいは労働者の過半数代表者と話し合うことが求められますが、その際には次の点に注意してください。

①派遣労働者も含めた労働者の意見をくみ取り、反映するように工夫する
②労使で有意義な話し合いができるように情報を適切に提供する

また、締結した労使協定については、労働者に周知するとともに、毎年度厚生労働大臣(都道府県労働局)に報告しなければならないとされています。

2.待遇見直しの際の留意点

派遣労働者の待遇を見直す際に、原資(財源)を新たに確保することが必要になることがあります。

原資を捻出する方法は、生産性の向上を図る、業務効率化のほか、派遣料金の引き上げ等が考えられます。

また、待遇に関わる制度の見直しや派遣先との派遣料金の交渉等が必要となることもあるでしょう。

これらは時間がかかる取組になるので、早めに取り組むことが求められます。

不合理な待遇差の解消を行うに当たって基本的に労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げること(不利益変更)は望ましい対応とはいえません。

この点に関連して、労働契約法では「不利益変更」を行う場合の留意事項を図表 2-10 のように定めています。

その他の情報はこちらから

そもそも働き方改革ってなんのために行うの?

厚生労働省サイト

 

執筆/資格の大原 社会保険労務士講座

金沢 博憲金沢 博憲

時間の達人シリーズ社労士24」「経験者合格コース」を担当致しております。
是非Twitterのフォローお願いいたします!

↓ランキングに参加しています。↓

にほんブログ村 資格ブログ 社労士試験へ