2022年度(令和4年度)の年金額はマイナス0.4%。その理由は?

みなさん、こんにちは。
金沢博憲(社労士24)です。

2022年度(令和4年度)の年金額は、2021年度(令和3年度)に比べてマイナス0.4%減額改定となりました。
2年連続の減額改定です。
そして、年金額の伸びを押さえるマクロ経済スライドは発動しませんでした

このページでは、法律上の年金額の決め方、マクロ経済スライドの仕組み、今年減額改定された理由、実際に受給できる具体的な年金額など、ポイントに絞ってご紹介します。

このような方にオススメです
  • 2022年度の国民年金・厚生年金保険の年金額を知りたい方
  • 年金額がどのように決まるのか知りたい方
  • 年金額が減った理由を知りたい方
  • マクロ経済スライドのことを知りたい方

「読んでいる暇がない」という方は、こちらの動画(7分程度)でサクッとご覧いただけます。

では見てまいりましょう。

年金額の決め方

年金額改定の基本ルール

年金額は、法律に定められたルールに則り、賃金・物価変動に応じて毎年度改定されます。

国が支給する公的年金のうち、最も多くの方が受給するのが国民年金法の「老齢基礎年金です。
例えば、自営業やフリーランスの方、専業主婦の方は、老後、老齢基礎年金を受給します。
そして、サラリーマンや公務員の方などのお勤めの方は、老後、老齢基礎年金と老齢厚生年金を年金として受給します。
つまり、老齢基礎年金は、全国民が受け取ることになる年金です。

老齢基礎年金の年金額の満額は、次の式で計算することが法律(国民年金法)に定められています。

780,900円×改定率

法定額の780,900円をベースに毎年度改定します。

この式にある「改定率」とは、世の中の賃金変動や物価変動に応じて年金額を自動的に連動させるための率です。
簡単にいえば、物価が上がれば年金額も上がる物価が下がれば年金額も下がる、ということです。

そして、賃金で改定するか、物価で改定するかは、基本的には「年齢」で変わります。

物価で改定するか、賃金で改定するか

年金額の改定ルールは、賃金>物価(賃金指数が物価指数を上回る)を想定して、

  • 新規裁定(68歳未満)→賃金スライド で改定
  • 既裁定(68歳以後)→物価スライドで改定

となっています。

新規裁定
(68歳未満)
既裁定
(68歳以後)
賃金スライド
で改定
物価スライド
で改定

しかし、現実にはそうなった試しがありません
デフレの世の中、物価>賃金(物価指数が賃金指数を上回る)という状況が続いているためです。

今後、短時間労働者の適用拡大が進み、実質賃金の押し下げ傾向が続くと考えると、これからも「物価>賃金」基調で推移する可能性が高いです。

令和3年度から変わった改定ルール

この、「物価>賃金」の場合の年金額の改定ルールが令和3年度から変わりました。

「物価>賃金」の場合、現役世代の負担増を抑えるため、賃金水準の変動に”完全”に連動させる形になります。

例えば、物価上昇>0>賃金下落の場合。

  • 令和2年度まで→改定なしで、年金額維持

だったのですが、

・受け手「物価上がったから生活が大変。年金増やしてほしい」
・支え手「給料減ったから生活が大変。年金減らしてほしい」
・政府「間をとって増減なしとします」

という経緯があり、令和3年度以降は

  • 令和3年度以降~→賃金下落分と連動させ、マイナス改定

となりました。

マクロ経済スライドによる調整

そして、前述の年金額が賃金や物価の上昇により、プラス改定される場合、「マクロ経済スライド調整」という仕組みにより、その年金額の伸びが抑制されます。

「マクロ経済スライド」とは、公的年金被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて、スライド調整率が設定され、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除するものです。
この仕組みは、平成16年の年金制度改正において導入されたもので、マクロ経済スライドによる調整を計画的に実施することは、将来世代の年金の給付水準を確保することにつながります。

例えば、物価が1%伸びたので、年金額も1%プラスされるという場合、マクロ経済スライド調整による調整が▲0.3%としたら、年金額は0.7%プラスに抑えられる、ということです。

(例)本来の年金額が1.0%アップ!→マクロ経済スライドにより0.7%アップ

なぜ、マクロ経済スライド調整の仕組みが必要かといえば、少子高齢化が進んでいるためです。

年金をもらう側の高齢者の平均寿命が伸び、保険料を払う側の現役世代の数が減っていく中、ありのままの年金額を支払うと、支え手である現役世代の負担が増えすぎてしまう、そして現役世代が将来受給できる年金が過度に減ってしまうため、その伸びを抑制することにしているのです。

しかし、毎年発動するわけではありません。
あくまで「伸びを抑制」する仕組みですから、賃金や物価が低下し、年金額が低下する局面では、マクロ経済スライドは実施されず、その年、調整されなかった分は翌年度以後に”ツケ”として繰り越されます。

デフレ基調ではマクロ経済スライドは発動しない

マクロ経済スライドは、2005年に制度がつくられましたが、経済がデフレ基調の中でしばらく発動されることはありませんでした。

その後、リーマンショック後の景気回復や消費税の引上げなど背景に、過去3回(2015年度、2019年度、2020年度)の年金額改定において発動しています。

こちらの動画で分かりやすく解説しています。

 

以上のことを踏まえ、2021年度の年金額がどうなったのかを見てみましょう。

2022年(令和4年度)の年金額は0.4%減額

総務省は、1月22日、「令和3年平均の全国消費者物価指数」(生鮮食品を含む総合指数)を公表しました。

合格者(男性)

翌年度の年金額は、毎年1月中旬に正式に公表されます。

これを踏まえ、2022年度の年金額は、法律の規定により、マイナス0.4%で改定されます。

月額でみると

  • 老齢基礎年金の満額月額→259円の減額
  • 厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)→903円の減額

となります。

年金額ベースでは

  • 780,900円×0.996=777,776円(50円以上100円未満を100円に切り上げ)→777,800円

です。

老齢基礎年金の満額を2021年度に比較すると

2021年度 2022年度
(▲0.4%)
780,900円×1.000
=780,900円
※月額65,075円
780,900円×0.996
=777,800円
※月額64,816円(▲259円)

2021年度は前年度の年金額からマイナス0.4%され、改定率は「0.996」となりました。
改定率の計算式は次のとおりとなります。

前年度の改定率1.000×名目手取り賃金変動率0.996≒0.996

このように改定率がマイナス0.1%改定されたわけですが、その改定の理由をみます。

改定の理由

改定率の改定の基準となるデータをみると

  • 物価変動率→▲0.2%
  • 名目手取り賃金変動率→▲0.4%

となっています。

賃金指数が物価指数を下回っています。

物価(▲0.2%)>賃金(▲0.4%)

年金額の改定は、名目手取り賃金変動率(▲0.4%)がマイナスで、名目手取り賃金変動率(▲0.4%)が物価変動率(▲0.2%)を下回る場合、年金を受給し始める際の年金額(新規裁定年金)、受給中の年金額(既裁定年金)ともに名目手取り賃金変動率(▲0.4%)を用いることが法律により定められています。

このため、2022年度(令和4年度)の年金額は、新規裁定年金・既裁定年金ともに、名目手取り賃金変動率(▲0.4%)によって改定されます。

なお、「名目手取り賃金変動率」とは、2年度前から4年度前までの3年度平均の実質賃金変動率に前年の物価変動率と可処分所得割合変化率(0.0%)を乗じたものです。

 実質賃金変動率(▲0.2%)× 物価変動率(▲0.2%)× 可処分所得割合変化率(0.0%)
(平成30~令和2年度の平均)(令和3年の値)   (平成30年度の値)

実質賃金は、給与水準が低い短時間労働者への適用拡大が押し下げ要因となったものと思われ、▲0.2%です。

可処分所得割合変化率は、厚生年金保険保険料の引き上げが完了したのでゼロです。

マクロ経済スライドは発動せず繰越し

そして、賃金や物価による改定率がマイナスの場合には、マクロ経済スライドによる調整は行わないこととされているため、令和4年度の年金額改定においては、マクロ経済スライドによる調整は行われません。

結果、令和3年度からの繰越分(▲0.1%)と、令和4年度の未調整分(▲0.2%)を合計した▲0.3%が、翌年度以降に繰り越されます。

  • ①令和3年度のスライド調整率(繰越分)→▲0.1%
  • ②令和4年度のスライド調整率→▲0.2%
 公的年金被保険者数の変動率(0.1%)× 平均余命の伸び率(▲0.3%)
 (平成30~令和2年度の平均)       (定率)
  • ③上記①と②を合計した▲0.3%が翌年度以後に繰越

以上、2021年度の年金額は次のとおりになります。

780,900円×改定率(0.996)
=777,800円
※マクロ経済スライド調整率(▲0.3%
)は繰越

 

国民年金保険料(令和4年度)は16,590円

国民年金の保険料は、平成16年の制度改正により、毎年段階的に引き上げられてきましたが、平成29年度に上限(平成16年度価格水準で16,900円)に達し、引き上げが完了しました。

その上で、平成31年4月から、次世代育成支援のため、国民年金第1号被保険者(自営業の方など)に対して、産前産後期間の保険料免除制度が施行されることに伴い、令和元年度分より、平成16年度価格水準で、保険料が月額100円引き上がり17,000円となりました。

実際の保険料額は、平成16年度価格水準を維持するため、国民年金法第87条第3項の規定により、名目賃金の変動に応じて毎年度改定されます。

令和4年度の国民年金保険料は16,590円です。

17,000円×保険料改定率(0.976)
=16,590円

なお、国民年金保険料は、2年前納が可能なため、令和5年度の保険料額もすでに決まっています。

  令和4年度 令和5年度
法律に規定された保険料額 17,000円 17,000円
実際の保険料額 16,590円 16,520円

在職老齢年金について(令和4年度)

令和4年度の在職老齢年金の支給停止調整額は、以下の通りとなります。

支給停止調整額(47 万円)は、名目賃金の変動に応じて改定することが法律に規定されています。
昨年から変更はありません。

令和3年度 令和4年度
60歳台前半の支給停止調整額 28万円 47万円
60歳台前半の支給停止調整変更額 47万円 廃止
60歳台後半と70歳以降の支給停止調整額 47万円 47万円

なお、令和2年の年金制度改正で、60 歳台前半の在職老齢年金が見直され、支給停止の基準額(28万円)が、60 歳台後半と同じ額(47万円)に引き上げられました。

年金制度改正についてこちらの動画で解説しています。

 

まとめ

・2022年度の年金額は0.4%減額

・物価>賃金のため、賃金変動率をベースに計算。

・マクロ経済スライドは発動せず、翌年度以後に繰越

・2022年度の国民年金保険料額は16,590円

 

執筆/資格の大原 社会保険労務士講座

金沢 博憲金沢 博憲

時間の達人シリーズ社労士24」「経験者合格(旧上級)コース」を担当致しております。
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