皆さん、こんにちは。
6月29日(金)に成立した「働き方改革関連法(推進法)」の本丸、「時間外労働の上限規制(残業時間の規制)」を取り上げます。
●「延長時間の限度基準」を「法律」に格上げ。違反には罰則。
●「特別条項」の場合でも上限を設ける
●「5割増賃金」の中小企業の猶予措置を廃止
全体像がわかる動画はこちら(2分30秒)
まず、現行のおさらいです。
現行の時間外労働の規制
労働基準法では、法定労働時間を超える労働を禁止しています。
法定労働時間は、1週間で40時間(一部の業種は44時間)、1日8時間までと定められています。
この法定労働時間を超える労働を「時間外労働」といい、労働基準法で禁止されています。
しかし、この時間外労働を完全に禁止すると実体経済が回らなくなるという理由で、労使合意に基づく手続きを踏めば、時間外労働が適法に行えるようになります。
36(サブロク)協定とは
それが、36協定(サブロク協定)と呼ばれる仕組みです。
使用者が労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者との書面による協定を所轄労働基準監督署長に届け出ることにより、当該協定の範囲で法定労働時間を延長し、又は、休日に労働させることができるようになります。
あわせて、過度な時間外・休日労働を抑制するために、使用者に時間外労働・休日に対する割増賃金の支払義務を課しています。
36協定で定める「延長時間」の規制
36協定の中では、労使の合意に基づき、法定労働時間を超えて労働することができる時間(延長時間)を定めます。
この36協定で定めた延長時間を超えて時間外労働をさせた場合は、労働基準法違反として処罰されます。
一方で、36協定で定める延長時間の範囲内であれば、適法です。
この延長時間は以下の期間についてそれぞれ定める必要があります。
- 1日
- 1日を超え3か月以内の期間(例えば1か月)
- 1年間
例えば、事例にある通り、
- 1日:5時間
- 1か月:45時間
- 1年間:360時間
という具合に定めます。
この労使協定で延長時間を定める際の「延長時間数」について、「法定上限」があるかといえば、現行では存在しません。
その代わり、上記②、③の延長時間については「時間外労働の限度に関する基準告知(限度基準告知)」において、一定の限度時間が定められています。(ただし、①工作物の建設等の事業、②自動車の運転の業務、③新技術、新商品等の研究開発などの業務は限度時間の適用除外とされています。)
すなわち、延長時間の限度は、労働基準法ではなく「限度基準告示」において定められているため法的拘束力がないのです。
結果、限度基準を超えた時間数を定めた36協定であっても、直ちに無効とされるわけではなく、締結・届出が可能となっています。
さらに「限度基準告示」自体が、「限度を超えて延長時間を定めてもよい」という特例を認めています。
それを特別条項といいます。
「特別条項」に上限なし
例えばデパートのボーナス商戦時の繁忙期などについては、延長時間を限度基準に収めることが困難です。
そこで、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合に、「特別条項付き協定」を結べば、限度時間を超える時間を延長時間として定めることができます。
「臨時的なもの」とは、一時的または突発的に、時間外労働を行わせる必要のあるものであり、全体として1 年の半分を超えないことが見込まれるものを指します。
限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情は、限度時間以内の時間外労働をさせる必要のある具体的事由よりも限定的である必要があります。
そして、この特別条項による延長時間については限度は定められておらず、労使の合意に任されることになっています。
すなわち、労使の合意さえあれば、どんな長時間の延長時間でも定めることが可能なのです。
実際、ある医療機関の36協定の実例として、
- 1か月200時間(年6回まで)
- 1年1,470時間
と定めているケースもあります。
以上、長時間労働対策の観点からの現行の規定の課題をまとめると、次の通りです。
現行制度の課題
●強制力がない
時間外労働限度基準告示に関しては、強制力がないために行政官庁が行うことができるのは助言指導のみであり、長時間労働抑制の実効性には欠けるとの指摘があります。
●事実上は無制限
さらに、36協定の「特別条項」に関しては、事実上時間外労働の上限を無制限にするものとの指摘があるほか、過重労働の温床となっているとの指摘もあります。
●長時間労働を直接規制する法的根拠がない
行政官庁による監督指導の在り方についても、現行の労働基準法には長時間労働を直接規制する法的根拠がないために、36協定に関する違反や賃金不払という観点での監督指導にとどまっているという問題があります。
このような現行制度下において、長時間労働の是正は喫緊の課題として挙げられる中、時間外労働規制の在り方についての検討が進められ、時間外労働の上限規制等に関する労働基準法等の改正案が国会に提出されています(現在も審議中です。)
その改正案の内容は次の通りです。
改正案の内容
・限度基準を法律に格上げ。違反に罰則。
時間外労働の上限を原則として月45時間、かつ、年360時間とした法定化した上で、この上限に対する違反には、罰則を課すことで強制力を持たせます(一部の除外業務を除く)。
また、1年単位の変形労働時間制(3か月を超える期間を対象期間として定める場合に限る。以下同じ。)にあっては、あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分することにより、突発的なものを除き恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度の趣旨に鑑み、上限は原則として月42 時間、かつ、年320 時間とされます。
36協定の新様式はこちら
中小企業は1年遅れで適用
なお、施行日は2019年(平成31)年4月1日ですが、中小企業においては1年遅れの2020年(平成32)年4月1日とされています。
・特別な事情がある場合にも適用される上限を設ける
労使協定に特別条項がある場合においても、時間外労働時間の限度を年720時間(月当たり60時間)とします。
かつ、年720 時間以内において、一時的に事務量が増加する場合でも、最低限、上回ることのできない上限として、
- 休日労働を含み、2か月ないし6か月平均で80時間以内
- 休日労働を含み、単月で100 時間未満
- 原則である月45 時間(一年単位の変形労働時間制の場合は42時間)の時間外労働を上回る回数は、年6回まで
という縛りを設けます。
現行規定の「時間外労働」には「休日労働時間数」を含みませんが、改正後の上記①②の80時間、100時間を判定する上では「休日労働時間数」を含めます。
これは、①②の基準がいわゆる過労死認定基準から持ってきたもので、過労死認定基準においては「休日労働時間数」を含めているからです。
・新技術、新商品等の研究開発の業務は引き続き適用除外
専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務の特殊性が存在します。
このため、現行制度で対象となっている範囲を超えた職種に拡大することのないよう、その対象を明確化した上で適用除外とします。
・「1日を超える一定の期間」の見直し
現行では、省令により「1日」及び「1日を超える一定の期間」についての延長時間が必要的記載事項とされ、「1日を超える一定の期間」は時間外限度基準告示で「1日を超え3か月以内の期間及び1年間」としなければならないと定められています。
今回、月45時間、かつ、年360時間の原則的上限を法定する趣旨を踏まえ、「1日を超える一定の期間」は「1か月及び1年間」に限ることになります。
・労働基準法に基づく新たな指針
さらに可能な限り労働時間の延長を短くするため、新たに労働基準法に指針を定める規定を設け、必要な助言指導を行うこととしています。
当該指針には、特例による労働時間の延長をできる限り短くするよう努めなければならない旨を規定するとともに、併せて、休日労働も可能な限り抑制するよう努めなければならない旨を規定することになります。
・現行の適用除外等の取扱い
現行の時間外限度基準告示では、①自動車の運転の業務、②工作物の建設等の事業、③季節的要因等により事業活動若しくは業務量の変動が著しい事業若しくは業務又は公益上の必要により集中的な作業が必要とされる業務として厚生労働省労働基準局長が指定するもの、が適用除外とされています。
また医師については、時間外労働規制の対象ですが、医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要です。
これらの事業・業務については、働く人の視点に立って働き方改革を進める方向性を共有したうえで、実態を踏まえて、猶予措置を設けます。
・中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
中小企業への適用が猶予されていた月60時間を超える時間外労働に対する5割以上の割増賃金率について、中小企業における長時間労働についても看過できないことや日本全体の長時間労働を抑制していく必要があることなどから、その適用猶予を廃止します(平成35年4月1日施行)。
・勤務間インターバルの努力義務の創設
勤務間インターバルについては、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることを可能にする制度です。
このため、労働時間等設定改善法を改正し、事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務を課すことになります。
・一定日数の年次有給休暇の確実な取得
使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないことになります。(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)。
よくあるご質問(厚生労働省)
改正法の施行に当たっては、 経過措置が設けられています。この経過措置によって、施行前と後に跨がる期間の36協定を締結している場合には、その初日から1年間に限っては、その協定は有効となります。
したがって、4月1日開始の協定を締結し直す必要はなく、その協定の初日から1年経過後に新たに定める協定から、上限規制に対応していだくことなります。
改正法の施行に当たっては、 経過措置が設けられています。この経過措置によって、施行前と後に跨がる期間の36協定を締結している場合には、その初日から1年間に限っては、その協定は有効となります。
したがって、4月1日開始の協定を締結し直す必要はなく、その協定の初日から1年経過後に新たに定める協定から、上限規制に対応していだくことなります。
派遣労働者について
労働者派遣法第44条第2項前段の規定により、派遣中の労働者の派遣就業に係る法第36条の規定は派遣先の使用者について適用され、同項後段の規定により、36協定の締結・届出は派遣元の使用者が行うこととなります。
このため、法第139条から第 142条までの規定は派遣先の事業又は業務について適用されることとなり、派遣元の使用者においては、派遣先における事業・業務の内容を踏まえて36協定を締結する必要があります。
事業場の規模については、労働者派遣法第44条第2項前段の規定により、派遣先の事業場の規模によって判断することとなります。
36協定の届出様式については、派遣先の企業規模や事業内容、業務内容に応じて適切なものを使用することとなります。
以上が主な改正案の内容です。
執筆/資格の大原 社会保険労務士講座
「時間の達人シリーズ社労士24」「経験者合格コース」を担当致しております。
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